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岐阜地方裁判所 昭和27年(レ)11号 判決

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人等の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、原判決事実摘示二枚目(二一九丁)裏一行目に記載の昭和二十六年十二月十二日岐阜地方裁判所多治見支部でなされた仮処分決定とは、債権者福徳鉱業株式会社(本件控訴人)、債務者訴外上田晋間の岐阜地方裁判所多治見支部昭和二十六年(ヨ)第二二号仮処分事件の仮処分決定の謂であつて、その主文は「債務者又はその代理人、使用人、雇人等は登録番号岐阜県採掘権登録第四五〇号恵那郡落合村所在面積二万一千七百坪の亜炭鉱区より亜炭の採掘搬出作業は勿論、同鉱区内に立入つてはならない。債務者の委任する岐阜地方裁判所々属執行吏は前項に関し適当の公示方法を講ずべし」であり(以下この仮処分を本件仮処分と呼ぶ)、同三枚目(二二〇丁)裏一行目の鉱区立入禁止の仮処分決定とは債権者上田晋、債務者訴外安藤九十並に控訴人間の岐阜地方裁判所多治見支部昭和二十六年(ヨ)第一八号仮処分事件の仮処分決定の謂であつて、その主文は「債務者両名又は其代理人、使用人、雇人等は登録番号岐阜県採掘権登録第四五〇号採掘権者申請人恵那郡落合村所在面積二万一千七百坪の亜炭鉱区の坑道内より、安藤九十所有のレールを取外し、坑外に搬出する目的以外には右坑道に立入つたり、又は申請人の亜炭採掘作業並びに搬出作業を妨害してはならない」であり(以下この仮処分を第一次仮処分と呼ぶ)、同一枚目(二一八丁)裏七行目に記載されている鉱区の亜炭採掘等の業務に従事しているとあるのは、訴外上田晋が経営し被控訴人等が同人に雇われて亜炭採掘に従事しているという意味であると述べ、同三枚目表第七行目「原告名義」とあるを「訴外上田名義」と訂正し、同四枚目(二二一丁)裏末行の「これが移転登録」とある次に「を了したから」を追加し、なお(一)訴外田中貞雄と安藤九十間の本件鉱区の売買契約が有効であるとしても、右訴外人間の契約は、昭和二十五年五月頃安藤の債務不履行により解除された。右解除は田中貞雄より安藤に対して口頭でなされた、仮りに右解除が不適法としても、昭和二十六年八月二十二日書面により解除の通知がなされたから、遅くも同日右契約は解除された。(二)控訴人主張の留置権に対しては、安藤九十が田中貞雄に対し費用償還請求権を有するとの点は否認する。仮りに安藤九十が控訴人主張のごとく出捐していたとしても同人の出捐は斥先掘契約に基き鉱業法に違反して採掘するための出捐であつて、その原因が不法であるから、右田中に対しその返還を求めることはできない。従つて右費用償還請求権に関し留置権を主張するのは失当である。(三)上田晋に権利濫用の事実ありとの点は否認する。即ち上田晋は田中、安藤間の売買契約解除後に、田中より買受けたものであるし、仮りに右解除が無効なりとしても、上田は昭和二十六年八月二十七日田中貞雄と売買契約をする当時より右解除を有効と信じていたのみならず、田中、安藤間の売買契約は斥先掘契約を隠匿するための仮装契約で、かかる契約は鉱業法に違反し無効で、安藤は本件鉱区について何等権利を有しないと確信していたのであるから、上田が本件鉱区の鉱業権を買受けたについて権利濫用の事実は存しない、と述べ、控訴代理人において原判決摘示事実六枚目(二二三丁)四行目の「その鉱区の権利は契約当初は代金の完済後移転することになつていたが」とあるを「その鉱区の名義は契約当初は代金の完済後書換えることになつていたが」と訂正し、被控訴人等主張の各仮処分の主文がいづれもその主張のとおりであることを認め、なお(一)安藤九十が本件鉱区に金員を出捐した当時、本件鉱区の採掘権は同人にあつたのであるから、その後採掘権を失つたとしても、そのため前になした出捐が一切不法原因に基くものとしてその後の採掘権者に奪取せらるべきものではない。従つて安藤からその返還請求権を譲受けた控訴人は、本件鉱区に留置権を有すること勿論である。(二)被控訴人等の主張する就労権は権利でなくして、雇傭契約による就労の義務で、その義務が雇主の都合で履行出来なければ、被傭者は雇主に対し雇傭契約の債務不履行に基く損害賠償を求むべきで、労働基準法に使用主をして一定の賃料を支払わしむるよう規定しているのも右の趣旨を示すものである。(三)本件仮処分が執行された昭和二十六年十二月十三日当時、上田晋はその所有にかかる本件鉱区の隣第五三〇号鉱区を採掘しており、その後も引続き採掘していたのであるから、同月二十七日に至つて、にわかに右第五三〇号鉱区の採掘が不能になる訳はない。これは就労可能なのに故ら休業したものであるから、右休業は本件仮処分が原因ではない。仮に本件仮処分が原因で採掘が不能になつたとしても、被控訴人等に真に勤労の意欲があるならば、同地方には他に炭鉱も存在し、当時炭業界は好況時代であつて、鉱夫に対する需要多く、就労は容易であつたに拘らず、それをしなかつたのは、同人等の怠惰により就労を回避したものであるというべきで、そのため損害が発生したとしても控訴人に何等責任はない、と述べたほか、原判決摘示事実と同一であるから、これをここに引用する。

<立証省略>

三、理  由

訴外上田晋が控訴人及び訴外安藤九十を被申請人として、昭和二十六年十一月二十六日岐阜県恵那郡落合村所在岐阜県採掘権登録第四五〇号面積二万千七百坪亜炭鉱区(本件鉱区)に対して、「被申請人両名又はその代理人、使用人、雇人等は採掘権者申請人の本件鉱区の坑道内より、元被申請人安藤九十所有のレールを取外し、坑外に搬出する目的以外には右坑道に立入つたり、又は申請人の亜炭採掘作業並に搬出作業を妨害してはならない、」旨の第一次仮処分の申請をなし、申請どおりの仮処分決定を受け、その執行をしたことについては当事者間に争がなく、成立に争のない乙第六号証の記載並に弁論の全趣旨によれば、右第一次仮処分は上田晋が採掘権登録を有する本件鉱区の採掘作業に控訴人等が妨害を加えるので、その排除を求める訴を提起する前提として、申請されたものであることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。次いで、控訴人において、本件鉱区の占有を上田晋に侵奪されたことを理由に、これが占有回収の訴を提起するに先立ち、上田晋を債務者として仮処分の申請をなし「債務者又はその代理人、使用人、雇人等は本件鉱区より亜炭の採掘搬出作業は勿論、同鉱区内に立入つてはならない」旨の本件仮処分決定を受け、同年十二月十三日これを執行したことについても当事者間に争がない。而して原審並に当審における証人上田晋、原審における証人加納岳彦、同楯次男(第一、三回)の各証言を綜合すれば、被控訴人等が、いづれも上田晋に雇われ、その経営する本件鉱区の亜炭採掘に従事しているものであること、控訴人の本件仮処分の執行により、上田晋は昭和二十六年十二月十三日より本件鉱区の採掘を中止し、その隣鉱区で、同月二十七日まで採掘を継続し、一時被控訴人等を右隣鉱区で採掘に従事せしめたが、同鉱区は落盤等の危険があり、且採算がとれないため、その翌日より昭和二十七年一月九日本件仮処分が取消判決に基き解除されるまでの十三日間採掘を中止していたこと、そのため被控訴人等も右期間休業の已むなきに至つたことが認められ他に右認定を左右するに足る証拠はない。されば特段の事情のない限り右休業期間の内被控訴人等において、公休日であることを自認する昭和二十六年十二月三十一日、昭和二十七年一月一日及び前掲証人楯次男(第一回)の証言により公休日であることの認められる昭和二十七年一月二日、同月三日を控除した九日間は、もし本件仮処分がなかつたならば本件鉱区において労務に従い、従前の報酬を得ていたであろうことが推認出来るので、被控訴人は本件仮処分によりその履行を不能にされ、右期間に同人等が得べかりし報酬と同額の損害を蒙つたものということができる。

およそ、仮処分が、その前提たる基本権利無くしてなされた場合、或は仮処分を必要とする理由無くしてなされた場合、その仮処分が違法であることは勿論であるが、他面、仮令仮処分の要件即ち基本権利の存在及び仮処分の必要性が適法に具備されている場合においても、該仮処分が既に存在する仮処分命令を廃止、変更し、又はその執行を除去することを直接の目的としてなされた場合には、かかる仮処分申請は違法であり、従つて仮令裁判所が誤つてこれを許容しても、その仮処分命令並にその執行は、それ自体違法であると謂うべきである。なんとなれば、仮処分債務者の救済方法は訴訟法に異議、事情変更による取消申立、或は特別事情にもとづく取消申立等多々規定してあるに拘らず、なお且債務者において、実体法上の訴を提起し、それに基く仮処分命令を申請し、もつて前の仮処分命令に基く執行を除去することを許容するならば、当事者双方は互に本案の訴と仮処分命令を利用して交々他の仮処分命令を実効無からしめ、その窮まるところ無きに至らしめる虞れがあり、かかる事態は到底法の許容するものでないからである。本件について見るに、前段認定の両仮処分決定を対比すると、いづれも同一の鉱区を目的として第一次仮処分の決定においては被申請人である控訴人に対し訴外上田晋の本件鉱区における亜炭採掘作業並に搬出作業を妨害してはならぬと命じているのであるから、本件仮処分決定において上田晋並にその雇人等の本件鉱区への立入並に亜炭の採掘搬出作業を禁止するのは、その内容において第一次仮処分命令の内容に牴触するものであることは極めて明瞭である。而して同一当事者間に既に仮処分命令の存する以上、その仮処分の被申請人が内容において全く牴触するような仮処分命令を新に申請したときは当該仮処分命令の申請趣旨並に理由自体で第一次仮処分の廃止、変更又はその執行除却を目的とすることが一見明白でなくとも、右の目的の下になされたものと見るのが相当である。従つて第一次仮処分とその内容において全く牴触し、且つ第一次仮処分の被申請人である控訴人が申請人として申請し、その申請どおりに発せられた本件仮処分命令は、第一次仮処分自体の効力排除を目的とするものと謂うべきで、その命令並にその執行自体違法たることを免れない。而して右のごとき本件仮処分の違法性は、本案の権利の有無により左右されるものでないことは明らかであるから、本案の権利についての控訴人の各主張はいづれも失当であり、なお又、違法仮処分による損害賠償は当該違法なる仮処分により損害を生ぜしめた者に不法行為の責任を問うもので、いやしくも当該仮処分が違法なる以上、仮処分債務者が正当なる権利者であるか否かには無関係に、損害を賠償すべきであり、殊に第三者が被害者である場合には、債務者が権利者なるか否かは、仮処分債権者の賠償義務に消長をきたさぬものと謂うべきで換言すれば本件仮処分の違法性は第一次仮処分の違法性と切離して考えるべきものであるから、第一次仮処分の違法性についての控訴人の各主張はいづれも失当である。

そこで、本件違法仮処分について控訴人に故意又は過失があつたか否かについて検討する。法律上許容されない保全処分を、債権者において法律の規定を知らず、若くはこれを誤解して債務者に対して保全処分をなし、債務者又は第三者に損害を生ぜしめたときは、一応は債権者に過失あるものと見るのが衡平上相当である。本件において控訴人は第一次仮処分の廃止、変更若くはその執行の除去を目的とする、或は目的としたと見らるべき仮処分を申請することを許容されないに拘らず、法律の規定を誤解して右のごとく許容されざる違法仮処分申請をなし、その違法なる申請を裁判所が看過して申請どおりの決定をなしたとしても、これを執行し、因つて前認定のように被控訴人等に損害を生ぜしめたのであるから、本件違法仮処分の執行について控訴人に過失が存したものと謂うべきである。控訴人は故意又は過失の存在を争うが、その全立証をもつてしても右認定を覆すことを得ない。

そうすると、被控訴人等の冒頭認定のごとき報酬額相当の損害は、上田晋、被控訴人等間の雇傭契約に基く被控訴人等の労務提供が、雇主である上田晋の責に帰すべからざる事由である控訴人の本件違法仮処分の執行によつて履行不能となり、被控訴人等において上田晋に対し報酬請求権を行使し得ない結果生じたものであると謂うべきである。右損害について、控訴人は、上田晋の休鉱は、隣鉱での採掘が可能なるに故らに休鉱したものであるから、損害を生じたとしても、それは本件仮処分に因るものでないと主張するが、その然らざることは冒頭認定のとおりであり、又右損害は被控訴人等が他に働くべき鉱山があるに拘らず就労を回避した結果生じたもので、本件仮処分によるものでないと主張するが、他に働くべき鉱山があるか否か、或は又被控訴人等が他の鉱山で働くべきか否かは、本件違法仮処分による損害の発生とは無関係で、唯現実に被控訴人等が他の鉱山に就労して利益を得ている事実があるならば、右の利益を損害額より控除する必要が生ずるのみであるところ、この点については何等主張立証もない以上控訴人の該主張が理由のないこと当然である。なお控訴人は、被控訴人等が侵害されたと称する就労権は、被控訴人等と上田晋との雇傭関係により成立するに過ぎず、控訴人によつて侵害さるべき対世的権利でないから、その賠償は上田晋に対して請求すべきであると主張するが、被控訴人等の損害が、上田晋に対してその賠償を請求し得ぬものであることは前記認定のとおりであり、不法行為の要件である権利侵害は、加害行為が違法であることを意味し、且つそれで充分で、その行為によつて不当に他人の利益を侵害すれば、不法行為による損害賠償義務が発生するのであつて、侵害された権利の名称如何は不法行為責任に消長をきたさぬというべきで、控訴人のこの点についての主張も理由がない。更に控訴人は、前記損害は特別の事情によるもので、控訴人はこれを予見しなかつたし、又予見し得べかりしものでなかつたと言うのであるが、本件違法仮処分により本件鉱区の採掘が中止され、従業員である被控訴人等がこのため休業の已むなきに至り、その結果休業期間中報酬相当額の得べかりし利益を喪失するに至ることは、本件仮処分により通常生ずべき損害であるから、損害発生については当然予見すべきところと謂うべきであるから、この点についての控訴人の主張もまた理由がない。

以上認定のように、過失により本件違法仮処分を申請し、且つこれを執行し、因つて被控訴人等に損害を与えた控訴人は、不法行為者として、その損害を賠償すべき義務あるものといわなければならない。

進んで、損害額を算定するに、原審における証人楯次男(第一、三回)、同上田晋、同加納岳彦の各証言によりその成立を認める甲第二号証、同第四号証、同第五号証、原審における証人楯次男(第三回)の証言によりその成立を認める甲第十一号証の一乃至五、同第十二号証、同第十三号証の各記載、及び原審における証人加納岳彦、同楯次男(第一、三回)の各証言を綜合すると、被控訴人等のうち田口公平は昭和二十六年十二月六日以降、大村駒吉は同年十一月十二日以降、伊佐治金一は同年十二月八日以降、その他の者は同年十月十八日以降いづれも本件仮処分執行の前日である同年十二月十二日迄本件鉱区に勤続していたもので、その日数は、田口公平が七日、大村駒吉が三十一日、伊佐治金一が五日、その他の者がいづれも五十六日となるが、田口公平については公休日である同年十二月九日を控除した六日、大村駒吉については、公休日である同年十一月二十六日、十二月二日、十二月九日の三日の控除した二十八日、伊佐治金一については勤続全日数、その他の者については、いづれも公休日である同年十月二十一日、十月二十八日、十一月十一日、十一月二十六日、十二月二日、十二月九日の六日を控除した五十日が労働可能日(別表(一)欄記載)で、その間被控訴人等が実際に就労した日数が別表(二)欄記載のとおりであること、被控訴人等が前記勤続期間中に得た賃銀の総額が別表(四)欄記載のとおりであることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右認定の事実から、就労日数を労働可能日数で除した値が被控訴人等の稼働率を示すことは明らかで、その稼動率が計数上別表(三)欄記載のとおりになること明白であり、賃銀総額を別表(二)欄の就労日数で除した値が被控訴人等の平均一日の収入換言すれば平均賃銀というべきでその値が計算上別表(五)欄記載のとおりになることも又明らかである。そうすると右認定の平均賃銀に冒頭認定の本件仮処分による休業日数九を乗じ、それに別表(三)欄記載の稼働率を乗じたものが、被控訴人等において、本件仮処分による休業期間中得べかりし賃銀であるというべきである。ところで右金額のうち六割は上田晋より休業手当として補填を受けたことを被控訴人等は自認しているので、結局右金額の四割に当る額が実際請求し得る損害額で、それが計数上別表(六)欄記載のとおりになることは明白である。なお控訴人は、上田晋が被控訴人等に休業手当を支払つている以上被控訴人等に損害はないと主張するが、休業手当は右のように六割が支給されたのみで、全額補填された訳ではないのであるから、補填されざる部分について、その賠償を求めるのは当然で、全額補填の事実の証明せられない限りこの点についての控訴人の主張が理由のないこと明らかである。

そうすれば控訴人は被控訴人等に夫々別表(六)欄記載の金額、及びこれに対する本件訴状が送達された翌日であることが記録上明らかである昭和二十七年一月十九日より完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

よつて被控訴人等の本訴請求は右金額の支払を求める限度において正当であるから、その範囲内において被控訴人等の請求を認容した原判決は結局正当であつて、本件控訴はその理由がないから、これを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 二宮節二郎 中瀬古信由 小沢博)

表<省略>

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